トニー滝谷
監督:市川準
出演:イッセー尾形、宮沢りえ
孤独と共に育ったトニー滝谷は、寂しいと思ったことはなかった。しかし、彼女と出会い、彼は孤独を知り、恐れ、そして、彼女との幸せな暮らしが始まった。
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哀しいけれど、あたたかい、寓話のような作品。
うれしい出来事も、哀しい出来事も、物語はさらさらと流れてゆく。朴訥なトニーと美しい妻、2人の世界がはかなく消えてしまっても、物語はさらさらと流れてゆく。
さらさらと流れていくのは「時間」。それはスクリーンの中だけではなく、今、私の足元でもさらさらと・・・。
魔笛
魔笛 / The Magic Flute
監督・脚本:ケネス・ブラナー
出演:ジョセフ・カイザー、エイミー・カーソン
モーツァルトが生涯の集大成として作り上げたオペラ「魔笛」を、ケネス・ブラナーが第一次大戦を舞台に映画化。
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私にとってほとんどなじみのないオペラ映画、2時間以上の長編と、「挑戦」という気持ちで挑んだ試写会。音楽と映像にすっかり魅了されてしまいました。
冒頭からやたらセクシーな天使がでてきてびっくり。オペラ → クラシック → お堅い作品、という公式は成り立たず。美しく、のびやかな音楽にのって、わぉ!という映像が次々に現れます。モーツァルトの旋律にぴったりとのったコミカルな映像がとにかく可笑しくて、にやにやしながら、スクリーンから目が離せない!
エンドロールが流れる頃には不思議と心があたたかく、幸せな気持ちに。
もともと多くの人にオペラを楽しんで欲しい!と製作された作品とのこと。
確かに、オペラも観てみたい!
マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶
(C) 2006 surf film-orme-acab
マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶 / Marcello, una vita dolce
監督:マリオ・カナーレ、アンナローザ・モッリ
ナレーション:セルジョ・カステリット
出演:バルバラ・マストロヤンニ 、キアラ・マストロヤンニ
マルチェロ・マストロヤンニは、ルキーノ・ヴィスコンティに才能を見出され、フェデリコ・フェリーニの「甘い生活」で世界的スターとなる。世界中の名匠や巨匠たちの作品に出演し、コメディーからシリアスなドラマまで160本余りの作品を残す。
没後10年を迎えたマルチェロ・マストロヤンニについて、2人の愛娘、新旧映画人たちが語るドキュメンタリー作品。
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2人の娘たち、そして、かつて共演した女優たちは、彼との過去を、自らが共有したその時間を、楽しげに、誇らしげに語る。フェリーニの旧友を懐かしむ表情がまたいい。
大きな愛がスクリーンから溢れだしてくるような作品。
ルオマの初恋
監督:チアン・チアルイ
出演:リー・ミン、ヤン・チーカン
雲南省紅河省の少数民族、ハニ族の少女ルオマは17歳。棚田の美しい村におばあちゃんと2人で暮らしている。ルオマはおばあちゃんのゆでたとうもろこしを背負い籠に入れ、乗り合いバスで町に出る。「焼きとうもろこしはいかが」大声をはりあげてもなかなかとうもろこしは売れない。観光客もルオマと一緒に写真を撮りたがるが、とうもろこしは買ってくれない。
ある日、カメラマンのアミンがルオマのとうもろこしを10本買ってくれる。代金の代わりにウォークマンを手渡すアミン。ルオマはウォークマンから流れるエンヤの音楽に魅了される。
アミンは観光客がルオマと写真を撮りたがる様子をみて、あることを思いつく。外国人観光客相手に、美しい棚田を背景にルオマと一緒に写真を撮らせる。撮影料金1枚10元。アミンのアイデアは大当たりし、観光客は列をなした。毎日アミンと一緒に過ごすルオマは、アミンに淡い思いを抱くように。
しかしアミンには恋人がいた。写真館をだし、今もなお仕送りを続けてくれている彼女に、アミンは頭があがらない。
田植祭の日、昆明に引き上げることを決意したアミンは別れを告げにルオマの家を訪れる。おばあちゃんは、ハニ族の若者は田植祭のときに好きな人に泥玉をぶつけて愛を告白するという話を2人にする。夕暮れのあぜ道で、アミンは足を滑らせ棚田に落ちてしまう。彼を助けようとルオマも田んぼにはいり、2人は泥玉を投げあう。
ルオマはアミンと一緒に昆明に行くことを決意する。バス乗り場に駆けつけたルオマが目にしたのは・・・。
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標高二千メートルという山岳地帯に鏡のようにきらきらとひかる棚田。朝焼けに、夕日に、きらめく様子は思わず息をのむほど。その美しい棚田の広がる村に、おばあちゃんと2人で暮らすルオマ。美しい民族衣装に身を包み、おばあちゃんのゆでたとうもろこしを背負い籠にいれ、乗り合いバスで町に向かう。そんな彼女の淡い、淡い恋物語。
ウォークマンから流れるエンヤの曲、そして、谷に響き渡るおばあちゃんの歌、壮大な自然と小さなひとびとの営みが調和する、美しい世界。
ルオマの恋心に胸がちくちくしながらも、気持ちはいつになくのびやかに。土、水、風と共に生きる心地よさを味わえたおかげと思う。
善き人のためのソナタ
ぽっかりと時間が空いたので映画館に行ったところ、ありえないような長蛇の列にびっくり。たまたま映画の日だったため、大混雑していたようです。残席2、3人というところで、ぎりぎり入場することができました。上映前にかなりドキドキしてしまいました。(笑)
善き人のためのソナタ / Leben der Anderen, Das
監督・脚本 : フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演 : ウルリッヒ・ミューエ 、 マルティナ・ゲデック 、 セバスチャン・コッホ
舞台は1984年、東西冷戦下の東ドイツ。あらゆる方法を使って反体制的であることを排斥し、国民の思想を管理しようとする国家保安省(シュタージ)によって、人々は息のつまるような生活を強いられていた。
ある日、国家保安省局員ヴィスラーは、劇作家のドライマンと舞台女優である恋人のクリスタの盗聴を命じられる。国家を信じ、組織に忠実使えてきたヴィスラーであったが、盗聴器を通して知る、自由、愛、音楽、文学・・・今まで考えることもなかったような気持ちが彼の胸に湧き始め--。
1989年、ベルリンの壁崩壊のニュースを目にしても、高校生の私は、そこで起きていることを実感することができませんでした。十数年後、出張でベルリンを訪れる機会に恵まれ、残されたベルリンの壁の前に立ち、壁に触れ、その壁が放つ圧倒的な存在感に怖さを覚えました。東ベルリンの街を歩いていると、街角のそこここに、暗い影が残っているように感じたのでした。
思想というものは、時に暴走して、人がコントロールできないような状況を生み出し、悲劇を生むことがあります。けれども、その悲劇に終止符を打つのも、やはり人であることこそが希望なのだと思います。人はその心次第で、不思議な力を得て、勇気ある行動を起こすことができることを、この作品はそっと私たちに告げてくれます。本当に正しいことはなにか?自分の頭で、心で、きちんと考えること、そして、その答えに素直に従えること、それが、善き人となりうるたった1つの方法であることを、この作品は静かに私たちに伝えてくれます。
この作品が自分と同年代の監督自ら取材に4年を費やし、描かれたものであることを改めて知り、人の心の美しさ、強さ、そして、私たちの将来が希望に満ちていることに、深い喜びを感じています。
ククーシュカ
気になりながらも見逃してしまった作品、やっとDVDで観ることができました。
監督 : アレクサンドル・ロゴシュキン
出演 : アンニ=クリスティーナ・ユーソ 、 ヴィル・ハーパサロ 、 ヴィクトル・ブィチコフ
舞台は第2次世界大戦末期、フィンランド最北の地ラップランド。ロシア軍とフィンランド軍が戦い、傷ついたロシア人兵士イワンと、仲間に置き去りにされたフィンランド人兵士ヴェイッコ、未亡人としてひとり暮らしているサミー人のアンニが奇妙な共同生活を始める・・・。
ロシア語、フィンランド語、サミー語、お互いの言葉を全く理解できない3人は、ひどく誤解しながらも、必要に迫られて、共同生活を送っていきます。戦場では敵対していたイワンとヴェイッコ。ヴェイッコは戦うことを放棄しているのに、何度説明してもイワンには伝わらない・・・。ときにケンカをはじめる2人をいなしながら、アンニはやさしく、たくましく、3人の暮らしをリードしていきます。
雄大で美しい風景、素朴な暮らし、アンニの強さは、戦争がどんなにばかばかしいものかを静かに伝えてくれます。最後の最後まで、とてもロマンチックな作品です。
ロスト・イン・トランスレーション
数年前にバージンスーサイズでしびれて、先日、マリー・アントワネットを観て、ソフィア・コッポラ大好き!と再認識。見落としていた作品があるのに気づき、さっそくDVD借りてきました。
ロスト・イン・トランスレーション / Lost In Translation
監督・脚本 :ソフィア・コッポラ
出演 :ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン
カメラマンの夫に随行してさして目的もなく東京にやってきたシャーロットは、街にでても興味を持てることも見つからず、虚ろな毎日を送っている。CM撮影のために東京にやってきた俳優のボブもまた、スタッフとのコミュニケーションに歯がゆさを感じながら、帰国日を待ちわびる日々を送っている。そんな2人が出会い、東京の街に繰り出し、やがて心を通わせてゆく。
大きな展開もなく、淡々と綴られてゆくストーリーを彩るのは、独特の色合いで描かれる東京の風景。見慣れているはずなのに、外国の景色みたいに感じるのは、きっと、シャーロットやボブの視線を通しているから。異国の地にいる心細さが、自分をちっぽけに感じる気持ちを増幅する感じ、あ、私だけじゃないんだ、とちょっぴりうれしかったりして。
やわらかいココロだからこそ痛みがあるってこと、思い出させてくれる作品です。
マリー・アントワネット
どうしても観たくて、むりくり時間をつくって豊洲のシネコンに。
マリー・アントワネット
/ Marie Antoinette
出演:キルスティン・ダンスト、ジェイソン・シュワルツ、ジュディ・デイヴィス
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
これほど有名な歴史的人物を、こんなにも魅力的に、生き生きと描くことができる描けるソフィア・コッポラにしびれました。賛否両論の作品だけれど、私は、こういう作品、大好き!
シャンパン、ケーキ、ドレスにジュエリーときらびやかなパーティーのシーンの後には、翌朝、その宴の残骸が片付けられていくシーンが続きます。うっとりするようなファンタジーとぞくぞくするようなリアルがごくごく自然につむがれて、その中に生きるマリー・アントワネットという女性は、すごく身近に感じられるのです。
女性だから描ける、女性の美しさ、強さ、優しさ、賢さと、女性のすべての魅力がぎゅっとつまった作品です。(私も女性であることが嬉しい!笑。)フランス革命がなんとかとか、そういうのを全部まっさらにして、マリー・アントワネットという1人の女性に会いにいくつもりで映画館に足を運んでもらえたら、と思います。
*「マリー・アントワネット」ソフィア・コッポラ単独インタビュー(シネマトゥデイ)
クィーン
試写会の案内状に骨太作品の予感。試写会場も満員+補助席設置という盛況ぶりでした。
出演:ヘレン・ミレン、マイケル・シーン、ジェイムズ・クロムウェル
監督:スティーブン・フリアーズ
脚本:ピーター・モーガン
1997年ダイアナ元皇太子妃がパリで急逝した事故直後、英国国民の感情の矛先となってしまうエリザベス女王の苦悩を人間味豊かに描いた作品。
エリザベス女王がというべきなのか、ヘレン・ミレンがというべきなのか悩ましいのだけれど、とにかくの彼女の圧倒的な魅力にしびれました。強く、賢明で、ユーモアがあり、気品があり、その上、とってもチャーミング!誇り高いことがあんなにかっこいいことだなんて、彼女に出会えなければ気づかなかったと思う。彼女に会いに、映画館に足を運ぶ価値があると思います。
女王の寝室やブレア首相のリビングなどのインテリアやロイヤル・ファミリーのファッションを楽しんだり、政治、マスコミ、世論について考えさせられたりと、間口もかなり広い作品です。今はただただ上質なものに出会えた充実感にひたっています。
サン・ジャックへの道
仲の悪い中年の3兄弟が1500kmの道のりを歩く・・・というより、歩き通す!というストーリー。青い空に緑の大地、のびのびとしたポスターがすでに"ツボ"で、わくわくと試写にでかけました。
サン・ジャックへの道 / Saint-Jacques... La Mecque
出演:ミュリエル・ロバン、アルチュス・ド・パンゲルン、ジャン=ピエール・ダルッサン
監督・脚本:コリーヌ・セロー
失業、アルコール依存症、失読症、人種差別・・・現代のシビアな問題ながら、誰しもが関わっている痛み。それぞれに背負った痛みとともに、来る日も来る日も歩いて、歩いて、歩き回る2ヶ月間。最初はけんかばかりしていたメンバーが、いつからか、なにかを受け入れ、穏やかに、黙々と歩きだす。雄大な景色にとけこむような、彼らの歩く姿に、尊敬?羨望?不思議な気持ちが沸いてくる。
慌ただしく、冷たい社会のすぐ隣に、美しい自然がひろがっていること、雄大な時間が流れていること、そして、誰でも、そこに身を置くことはできるということが、とても励みに。
泣いて、笑って、会場をでたとき、薄暗くなっていた街並みに思わず、ほっ。きっと、目はしょぼしょぼ、顔もくしゃくしゃだったはず。ストーリーもキャストも、音楽も、ツボだらけの作品でした。